盛日和

日記のようなもの

お団子屋さんのこと

1年ほど前、八幡宮近くにある老舗のお団子屋さんが火事に遭った。その時私は現場にいて、住人はどうやら逃げて無事らしいと聞いていた。30メートルほど先に目を遣ると、割烹着姿の女性が警察官や消防隊員に囲まれて話をしていたのを覚えている。遠くから見てもわかるくらいに、女性の肩はぶるぶると震えていた。

時間が経って、その火事のこともすっかり忘れてしまっていたが、先日、同じ場所に「だんご」の文字が入ったつつじ色ののぼりが出ていた。お団子屋さんが店舗兼住居を新たに構え、再オープンしていたのだった。2階建てのモダンな建物で、1階部が店舗になっていた。

店に入ると、お手伝いで入っているパートの女性(40歳代くらい)が出迎えてくれた。初めて見る方だったが快活そうな人であった。店の奥からは醤油の香ばしいにおいが運ばれてきていた。せっせとなにやら作業をしているらしい音もこぼれてきていた。

1本90円のしょうゆ団子を3つ注文して、プラスチック製の透明なパックに入れてもらった。奥から足音が近づいてきて、割烹着姿の初老の女性が見えた。

「いつ再開なさったんですか」
「10月からです。おかげさまで午前中に売り切れてしまう日もあるんですよ」

背の小さい、控え目そうなおばあさんだったが、店を再開できた喜びをその表情から感じ取ることができた。再起した人がもつ、強さが宿った目をしていた。いくつかのやり取りを交わしただけだったが、昼下がりのお団子屋での光景を数週間経った今でも時折思い出すことがある。

ともあれ、女性が同じ場所で店を再開できてよかった。近くの八幡宮の神様――あるいはほかのどんな神様でもかまわないのだけれど――どこかでささやかにその女性を護っていてほしいと強く思う。お団子を好きなだけ、いつまでも作っていられるように。